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西行花伝

辻邦生 新潮文庫

西行法師といえば、
"願はくは花のしたにて春死なん そのきさらぎの望月のころ"
という和歌を詠み、本当に如月の満月の日に桜の下で生涯を終えたということしか知りませんでした。珍しく、人に薦められて読んだ本なのですが、とても良かった。
内容は、西行の弟子藤原秋実が、師の生涯を書き残すために色々な人に西行のことを聞きにいくというものです。西行の子ども時代から死ぬまでが章ごとに語られます。長い本なのですが、語り手が代わっていくので、最後まで飽きずに読めました。
悟りを得る、といっては高尚だけれど、たとえば春になったら桜が咲くことを嬉しく思ったり、明日好きな作家さんの本が出ることを楽しみにしたり、そういう胸に小さく灯る明るいものを自分自身の中にもっていることを知っていることが大事なんだろう、と思いました。
桜が咲くたびに、きっと西行のことを、この本のことを思い出します。

こころの処方箋

河合隼雄 新潮文庫

たくさんの「気づき」が詰まった本だと思う。私は心理学には偏見があって、今まで近づかないようにしていた分野だったのだけれど、少しずつだけれど、視野が広くなってきて、興味も湧いてきた。こういう、自分の変化というのはとても面白い。けれども、この本は、少し、というか、かなりタイトルと表紙に抵抗があって、本屋さんでしばらく悩んでいた。癒してあげますー、というオーラが苦手なのです。でも、思い切って買って読んでよかった(そんなに思い切ってはいないけれど)。常識的な感覚を共有できる人がちゃんといる、と思えるのは、とても安心することだ。気持ちを理解されるより、よほど心強い。

スカイ・クロラシリーズ

森博嗣 中央公論新社

森博嗣さんは憧れの人の一人。書くのが早くて、絵も上手くて、センスもある。そう、センスがいいんです。素敵だ。紹介するスカイ・クロラシリーズは、思わず単行本で買ってしまった本。文庫本のデザインも、吉本ばななさんの解説も素敵だけど、これはやっぱり単行本で集めたいシリーズ。素晴らしい装丁の本は、手にしただけでときめきます。
さて、内容ですが、これは説明するのは難しい。そして、説明してしまってはいけないと思うので、本のオビ(?)を紹介したいと思います。
「なにも欲しくない。 誰のためでもない。 誰も褒めてはくれない。 ただ、飛び続けたい。 僕が僕であり続けたい。 生きているかぎり。」
シリーズ4作目の『フラッタ・リンツ・ライフ』から引用しました。静寂の空に、たった独りでいるような、そんな詩的な小説です。

森博嗣の浮遊工作室

ナイン・ストーリーズ

J.D.サリンジャー 新潮文庫

「ライ麦畑でつかまえて」で有名なサリンジャーですが、私はこの「ナイン・ストーリーズ」あるいは「フラニーとゾーイー」のほうが好きです。「ナイン・ストーリーズ」は題名の通り、9つの話を集めた短編集です。この人の作品の魅力を、何て言ったらいいんだろう。独特な魅力があるのです。会話のユーモアなんか、天才的です。とってもスマートで洒落ているのですよ。ぜひ、真似したいです(笑)。でもこの文庫、顔写真と著者の紹介を載せているんですよね。サリンジャーに対する愛が足りないです。

高野聖

泉鏡花 角川文庫

美、といったら、この人の作品を紹介しないわけにはいきません。文章がそれはもう、美しい。ぞっとするほどに。一文一文が艶めいているのです。そして、文章のリズムもいい。思わず音読したくなります。小説には、エンタメを目的にしたものと、芸術を目的にしたものとがあると思うのですが、彼の作品は、後者です。文章でここまで美を表現できるのか、と打ちのめされる思い。この文庫には表題のほか、義血侠血、夜行巡査、外科室、眉かくしの霊が収録されています。

鉱石倶楽部

長野まゆみ 文春文庫

長野まゆみさんの作品を何か一つ入れておかなければ、と思いついたのがこの作品。長野さんは独特の単語とルビを使う方で、たとえば薔園(オアシス)とか、水紅(とき)色とか、檸檬石(シトロン・ロック)だとか。単語を並べるだけで、綺麗な気持ちになれるから不思議です。「鉱石倶楽部」は、一つ一つの鉱石に短編が添えられた短編集です。詩集、といったほうがいいかもしれません。言葉の宝石箱、という感じですね。

長野まゆみ公式WEBサイト耳猫風信社