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村田エフェンディ滞土録

梨木香歩 角川文庫

鸚鵡、驢馬、ヨークシャ・プディング、神々の墓場、アジの塩焼き・・・・・・。並べたのは小説内の小題。題名のつけ方は、すごくセンスの出るところだと思います。素敵だなぁ、やっぱり。
お話は、考古学の研究のため、トルコへ研究員として招かれた村田君の、下宿先での日々を綴ったもの。1899年という時代は、しっかり背景にあるのだけれど、天井のわずかにずれた隙間からか、漆喰の壁の割れ目からか、不思議な空気が漂ってくる。それにすっかり惹きこまれてしまった。
――友よ。
と、きっと最後には叫びたくなります。類似のテーマのものでは米沢穂信さんの『さよなら妖精』もおすすめです。

エンジェル エンジェル エンジェル

梨木香歩 新潮文庫

私は宗教的な信仰は持っていないけれど、祈る気持ち、というのは分かる気がする。「エンジェル エンジェル エンジェル」という題名は、祈りの言葉のようだ。読んだ後に、その言葉は、時間と、空間と、想いとを、全て重ね合わせて響かせる。こだまのように、その祈りのような言葉が響いていく。人間の残酷さや、弱さを、こんなにも温かく、愛おしく書けるのか、と思った。切ないけれど、透明な朝の光のような、明るさの中にある、そんな作品です。文字組みも、言葉遣いもとっても素敵。

梨木香歩情報部

十二国記シリーズ

小野不由美 講談社文庫・講談社ホワイトハート文庫

有名なシリーズですね。続きがなかなか出てくれないです(涙)。
現代から異世界へ行くファンタジーは、よくあると思うのですが、十二国記はそんな心ときめくファンタジー、ではないです。もっとシビアでリアルです。リアル、というのは、人間がすごくリアルなんです。感情の動きがリアル、といったら伝わるでしょうか。
普通の女子高生だった陽子が、異世界に一人、放り出されて、妖魔に追われ、散々に裏切られ、誰も信じられなくなる。この辺りも本当に容赦がなくて、陽子に同調するからこそ、その先で陽子がたどり着いた強さが、とても重く響く。人の弱さの本当に深いところまで書くけれど、それ以上の人の芯の強さがある。ちなみに私は「図南の翼」が一番好きです。

小野不由美ファンサイト素晴らしきかな小野不由美

屍鬼

小野不由美 新潮文庫

怖いです。怖がりの人にはおすすめしません。夜、安眠できなくなります。私は怖いのが駄目なくせに3回くらい読みましたが(笑)。簡単に言ってしまえば、吸血鬼の話なのですが、吸血鬼なんて、そんな可愛らしい単語ではいけませんね。屍鬼ですね、やっぱり。土の下から起き上がってくるんです。ああ、書いているだけで怖くなってきました。あの、カーテンの隙間が怖いんです。
けれども、それでも何度も読んでしまうのは、やっぱり怖いだけではないからです。いや、やっぱり怖いからかな。突きつけられる問いの純粋さ、それゆえの怖さってありますよね。生きるって何なのか。そう、言葉にしてしまうと、ひどく薄っぺらなのですが、とても重たい本です。あとがきで宮部みゆきさんが、この本は単行本で読むべきだと言っていますが、そのとおりですね。文庫で紹介していますが、あの分厚くて重たい単行本が、この小説の形態には合っていると思います。

きみにしか聞こえない

乙一 角川スニーカー文庫

乙一さん、すっかり有名になってしまって。デビュー仕立ての頃から読んでいたので、何だか感慨深いです。素敵な作品はちゃんと世の中に知られていくものなのですね。私の持っている文庫のオビには、切なさの達人・乙一22歳の到達点! と書かれていました。ちょっと違う気がしますね、色々と(笑)。当時は切ない系がブームだったんです、確か。内容ですが、携帯電話を題材にした作品です。と、いっても空想の携帯電話。携帯電話をもっていない、主人公の高校生の女の子が、こんな携帯電話が欲しい、と想像するのです。そして、ある日、空想でしかないはずの携帯電話から着信音が流れる・・・・・・。最初に読んだときの衝撃をまだ覚えています。乙一さんの小説は結末がいつだって衝撃的です。二重三重に。

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アンジュール

ガブリエル・バンサン 

バンサンは大好きな絵本作家の一人です。色々な作品を紹介したいのですが、とりあえずは『アンジュール』を紹介したいと思います。私がバンサンに出会ったのも『アンジュール』でした。これこそ絵本だ、と思いました。昔の無声映画のイメージといったら伝わるでしょうか。彼女の作品にはデッサン絵本が多くあるのですが、『アンジュール』もその一つで、鉛筆デッサンのみで描かれています。その静けさ、その迫力。息遣いが聞こえてくるほどに、絵が生きています。辿り着きたい境地です。

銀河英雄伝説

田中芳樹 徳間デュアル文庫

これは名作です。文庫も、色々なところから出ていますね。どの文庫がどう、と比べてはいないので、その辺の紹介はできませんが。調べたら、徳間ノベルズに書き下ろした初版は1982年発行でした。それから5年をかけて、本編は全10巻刊行されています。20年も前なのに、全然古くならないです。むしろ、今だからこそ、社会に問うてほしいテーマのような気がします。専制国家と民主主義国家。どちらにも利点と欠点がありますよね。どちらが良いかなんて、一概には言えません。ただ、専制国家が駄目だから、民主主義だ、というのでは民主主義の欠点を克服できません。完璧なんてないのかもしれませんが、それでも、そろそろもう一度見直さなければいけない時期にきていると思います。ヤンには本気で恋してました(笑)。高校生の自分。

公式情報サイトWRIGHT STAFF ONLINE

心の鏡

ダニエル・キイス ダニエル・キイス文庫 早川書房

「アルジャーノンに花束を」で有名なダニエル・キイスの短編集です。アルジャーノンの短編版も収録されています。ダニエル・キイスは、人間の精神の深く深くに潜って、小説を書く人だと思います。だから、読んでいて時々怖くなります。自分の精神の深く深くに突き刺さる言葉があるからでしょう。人間の弱さをよくわかっていて、その上で愛している。そんな短編集です。